Date: Tue, 15 Oct 1996 07:55:38 -0600
From: Shigemichi Yazawa
Subject: [climbing 4034] Cirque of the Towers

なんだか、とんでもなく遅くなってしまいましたが、この夏に登ったワイオミン
グの Cirque of the Towers の報告を書いたので、投稿します。登ったのは8月
の第2週...ぐらいだったと思います、たぶん。同行者は、ML の大渕さんと藤森
さん。ML で日頃メールの交換はしているものの、実際にお二人とお会いしたのは
去年湯河原でやったオフライン ミーティングと室内ジムで一度お会いしただけで
す。それが、アメリカまで来て一緒に登っていただけるというのですから、これぞ
ML の効用というものでしょう。

Cirque of the Towers はワイオミングの Wind River Mountains の一角にあり
ます。Boulder からだと車でだいたい8時間といったところです。トレイル 
ヘッドからベースとなる Lonesome Lake 近くのキャンプ地まで、9マイルほど
歩かなければなりません。これが、登攀具やテント、食料をかついで登ると結構
きついのです。学生の頃は、これに加えてビール10リッターとかかついで登り
ましたが、今はとてもそんなことはできません。

キャンプ地は沢の源流のお花畑の中で、非常に美しくて快適です。クライマーは
結構入っているのですが、我々の数10メートル以内にはテントはなく、他人に
邪魔されずにキャンプ生活を楽しむことができます。周りを眺めると、Cirque of
the Towers という名前のとおりに、巨大な岩の塔が立ち並んで、クライマーに
とってはまさに理想郷です。

我々は、そこで3本のルートを登りました。

■ Pingora South Buttress II 5.6(バリエーション 5.8)
この山域でいちばんよく登られているルートです。1日にまあ10パーティーぐら
いは取り付いているでしょう。ガイドブックでは3ピッチとなっていますが、我々
は4ピッチで登りました。短くて簡単、しかも快適なので、足慣らしには最適です。
4ピッチ目のバリエーションの 5.8 のクラックは、細目のかちっと指がかかるク
ラックで特に快適。リードした大渕さんによれば、ナッツがびしびし決まって気持
ち良かったそうです。3rd のガレ場を数百メートル歩くと頂上。頂上からは Wolf's
Head East Ridge のナイフエッジが真正面に見えます。下降は同ルートを懸垂。
我々はアルパイン クライミングの原則に則り日の出前から行動していたのですが、
取り付きに戻ってみると、もうすでに2時頃になっていたと思いますが、今から登
り始めようというパーティがいます。これが2本目というわけではなさそうだし、
午前中は何をしていたのでしょうか。アメリカ人のやることはよう分かりません。

■ Wolf's Head East Ridge III 5.6
これは、50 classic climbs にも載っているクラシック ルートです。このルートは
特異なルートで、クライムというよりトラバースといった方が当たっています。
Wolf's Head の頂稜はほとんど平坦なナイフエッジになっていて、そこに行き着くま
でよりもむしろ、その後の頂稜のトラバースの方が長くて時間がかかり、核心もそこ
にあります。両側の切れた幅 1m にも満たないスラブ登りあり、足下数百メートル何
にもないハンドトラバースあり、スクイーズチムニーあり、と変化に富んでいて楽し
ませてくれます。難しいところはないものの、何しろ長いルートで、20ピッチぐら
いありました。それに、3人で登っていたということもあって、頂上(どこが頂上か
よく分からないピークなのですが、頂稜のトラバースが終わって、下降に移る手前が
頂上とされています)付近に着いたときは暗くなってしまい、下降のルートファイン
ディングが結構難しいとのことなので、やむを得ずビバーク!! ビバークも寒くさえな
ければ、たまにはいいものなのですがねえ。でも、雨も降らず、風もあまり強くなく、
幸いでした。藤森さんはビバークは初めてとのことで、随分楽しんでおられました。
下降は、数ピッチの懸垂を交えながら、良く分からない踏み跡をたどり、ガラガラの
ルンゼを降りたりしなければいけなかったので、ビバークして正解でした。ガイド
ブックには、ほとんどのピッチが 4th と書いてありますが、私の印象ではほとんどの
ピッチが 5.5 以上でした。50 classic climbs ではなんと、II 5.5 とグレーディン
グされていますが、新しいグレードの III 5.6 でも厳しすぎと感じました。IV 5.7
が妥当な線かと思います。このルートはおもしろいです。お勧めします。大渕さんは
以前もこのルートを登られていて、今回で2回目だったのですが、もう1度登っても
いいと言っておられました。私も同意見です。

■ Pingora Southwest Face, Right III 5.9
South Buttress の左隣の5ピッチのルート。ビバークして日数が無くなってしまった
ので、短いルートを帰る日の朝にということで、大渕さんと2人で登りました。5.9
という今回のクライム中最難のピッチがありましたが、難無く通過(当たり前か)。
このルートはやや特徴に欠けるきらいがあるものの、頂上直下に突き上げる好ルート
です。下降は South Buttress を懸垂。

ナチュラルギアを使ったクライミングは私にとって本当に久しぶりだったのですが、
3本登ってだいぶ慣れました。日本では、クラックというと短いクラッグにしかない
し、それも今やほとんど見向きされませんが、長いルートをクラックをたどって登る
のは本当に楽しい。それに、アメリカの岩を登っていつも思うのですが、見事に残置
がありません。ここでも、3本登ってビレイポイントを含め、4〜5本しか残置を見
ませんでした。

今回登ったルート以外にも、おもしろそうなルートはたくさんありますが、特に次に
来たときぜひとも登りたいルートを2本挙げます。

■ Pingora Northeast Face IV 5.8
これも、50 Classic Climbs 中の1本。50 Classic に載る前からクラシック ルート
だった、とガイドブックにはあります。全体で11ピッチのルートで、最後の1ピッチ
だけ 5.6 ですが、他はすべて 5.7 か 5.8。こう聞くだけでも登ってみたいと思いま
せんか。

■ Warrior I Northeast Face IV 5.9
Warrior I はキャンプ地から右に見える、ちょっとドリュに似た、格好の良い岩峰。
私は岩の形を見ただけで登りたくなりました。Northeast Face は Cirque の中でい
ちばん長いルートだそうです。初登は Fred Becky。まず、ほとんど誰も取り付いて
いないと思われるので、このグレードはあまり当てにはならないでしょう。

ガイドブック:
"Climbing and Hiking Wind River Mountains"
Joe Kelsey
Chockstone Press
ISBN 0-934641-70-6

現在入手できる唯一のガイドブックだと思われます。Wind River Mountain には
Cirque of the Towers 以外にも岩場がたくさんあるようです。John Middendorf の
ホームページにも Wind River のどこかで人工のルートを開拓した記事が載っていま
した。

以上です。

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Shigemichi Yazawa

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